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ひとあしおさきに
一足お先に
夢野 久作
Read 一足お先に (ひとあしおさきに) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 40,200 characters · 79 screens
「六度二分。……ハハア……昨日とかわりませんな。貴方も経過が特別にいいようです。スッカリ癒合していますし、切口の恰好も理想的ですから、もう近いうちに義足の型が取れるでしょう」
私はやはり黙ったまま頭を下げた。われながら見すぼらしい恰好で……。「罪人は、罪を犯した時には、自分を罪人とも何とも思わないけれど、手錠をかけられると初めて罪人らしい気持になる」と聞いていたが、その通りに違いないと思った。手術を受けた時はチットもそんな気がしなかったが、タッタ今義足という言葉を聞くと同時に、スッカリ片輪らしい、情ない気もちになってしまった。
「……何なら今日の午後あたりから、松葉杖を突いて廊下を歩いて見られるのもいいでしょう。義足が出来たにしましても、松葉杖に慣れておかれる必要がありますからね」
「……どうです。私が云った通りでしょう」
と青木が如何にも自慢そうに横合いから口を出した。外出してもいいと聞いたので、一層浮き浮きしているらしい。
「新東さんは先刻から足の夢を見られたんですよ」
私は「余計な事を云うな」という風に、頬を膨らして青木の方を睨んだが、生憎、青木の顔は、副院長の身体の蔭になっているので通じなかった。