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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Read 二つの途 (ふたつのみち) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,102 characters · 104 screens
押えとめられて却って喘ぎの音を立ててる、温い息が感ぜられた。それが数瞬の間続いた。啓介は俄に直覚した。疑う余地はなかった。彼は暫く躊躇した。それから眼をふさいで心を落ち付けた。そして云った。
「木下君、はいり給え。丁度眼がさめてるから。」
三四秒の間、静まり返った。それからすーっと襖が開いて、木下がはいって来た。
彼の顔は総毛立っていた。眼の光りが黒く冴え返って、荒々しいほど露わに覗き出していた。彼は室内をくるりと見廻した。それから、其処に置かれてる炬燵によりかかるようにして坐った。
「まだ起きてたのか。」と啓介は云った。声が自然に震えた。
「用があるんだ。」と木下は答えた。
啓介は黙っていた。
「君は、」と木下は云った、「僕のやったことを卑劣だと思ってるね。」
啓介は静に首を振った。
「つまらないお世辞は止し給え。僕自身も卑劣だと知ってる。然し……僕は君達の心が知りたいんだ。」
「おい、低い声で云ってくれ給え。」と啓介は注意した。調子はもう落付いていた。「二人共眠ってるから。」
暫く沈黙が続いた。
「僕は今のうちに、解決しておきたいんだ。」と木下は云った。「中途半端な状態は堪えられない、然し病気の君と争うつもりではない。