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はくしゃくのかんざし
伯爵の釵
泉 鏡花
Read 伯爵の釵 (はくしゃくのかんざし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,403 characters · 39 screens
あの底知らずの竜の口とか、日射もそこばかりはものの朦朧として淀むあたりに、――微との風もない折から、根なしに浮いた板ながら真直に立っていた白い御幣が、スースーと少しずつ位置を転えて、夢のように一寸二寸ずつ動きはじめた。
凝と、……視るに連れて、次第に、緩く、柔かに、落着いて弧を描きつつ、その円い線の合する処で、またスースーと、一寸二寸ずつ動出すのが、何となく池を広く大きく押拡げて、船は遠く、御幣ははるかに、不思議に、段々汀を隔るのが心細いようで、気も浮かりと、紫玉は、便少ない心持がした。
「大丈夫かい、あすこは渦を巻いているようだがね。」
欄干に頬杖したまま、紫玉は御幣を凝視めながら言った。
「詰りませんわ、少し渦でも巻かなけりゃ、余り静で、橋の上を這っているようですもの、」
とお転婆の玉江が洒落でもないらしく、
「玉野さん、船をあっちへ遣ってみないか?……」
紫玉が圧えて、
「不可いよ。」
「いいえ、何ともありゃしませんわ。それだし、もしか、船に故障があったら、おーいと呼ぶか、手を敲けば、すぐに誰か出て来るからって、女中がそう言っていたんですから。」とまた玉江が言う。