Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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ちゅうとう

偸盗

芥川 竜之介

Read 偸盗 (ちゅうとう) by Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,934 characters · 97 screens

Aozora Bunko

……

「大事にならなければいいが。」

猪熊のばばは、蛙股の杖を早めながら、この時始めて心の底で、しみじみこう、祈ったのである。

かれこれその時分の事である。楚の先に蛇の死骸をひっかけた、町の子供が三四人、病人の小屋の外を通りかかると、中でもいたずらな一人が、遠くから及び腰になって、その蛇を女の顔の上へほうり上げた。青く脂の浮いた腹がぺたり、女の頬に落ちて、それから、腐れ水にぬれた尾が、ずるずるあごの下へたれる――と思うと、子供たちは、一度にわっとわめきながら、おびえたように、四方へ散った。

今まで死んだようになっていた女が、その時急に、黄いろくたるんだまぶたをあけて、腐った卵の白味のような目を、どんより空に据えながら、砂まぶれの指を一つびくりとやると、声とも息ともわからないものが、干割れたくちびるの奥のほうから、かすかにもれて来たからである。

三

猪熊のばばに別れた太郎は、時々扇で風を入れながら、日陰も選ばず、朱雀の大路を北へ、進まない歩みをはこんだ。――

日中の往来は、人通りもきわめて少ない。栗毛の馬に平文の鞍を置いてまたがった武士が一人、鎧櫃を荷なった調度掛けを従えながら、綾藺笠に日をよけて、悠々と通ったあとには、ただ、せわしない燕が、白い腹をひらめかせて、時々、往来の砂をかすめるばかり、