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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Read 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 160,664 characters · 323 screens
それは若々しい声であった。
「鳥はいいな。羽根がある」
もう一つの若々しい声が云った。
「飛んで行きたいよ。高い山へ!」「飛んで行きたいよ深い森へ!」「信州の山へ! 八ヶ嶽へ!」「そうだ俺らの古巣へな」
三、四人の声がこう云った。
愉快そうな笑い声が聞こえて来た。
枯草の匂いが立ち迷った。
で、またひとしきり静かになった。
都会の方から笛の音がした。按摩の流す笛であった。
観音堂は闇を抜いて、星空にまで届いている。と、鰐口の音がした。参詣する人があるのだろう。
「また白蛇を盗まれたそうで」
突然こういう声がした。
「では二匹盗まれたんだな」
もう一人の声がこう云った。「毒蛇だのに、誰が盗んだかな」
「八ヶ嶽だけに住んでる蛇だ」
「毒蛇だのに、誰が盗んだかな」
「いずれ馬鹿者が盗んだんだろう」
ここで再び笑い声がした。
それが消えると静かになった。カラカラと駒下駄の音がした。横に曲がってやがて消えた。
また微風が訪れて来た。
興行物の小屋掛けが、闇の中に立っていた。ギャーッと夜烏が啼き過ぎた。
「冬になるまでには帰りたいものだ」
老人の声がこう云った。
「帰れるともきっと帰れる」