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じゅうばんざっき

十番雑記

岡本 綺堂

Read 十番雑記 (じゅうばんざっき) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,745 characters · 16 screens

Aozora Bunko

そのあいだをどうにかこうにか潜りぬけて、夜店の切花屋で梅と寒菊とを買うには買ったが、それを無事に保護して帰るのが頗る困難であった。甲の男のかかえて来るチャブ台に突き当るやら、乙の女の提げてくる風呂敷づつみに擦れ合うやら、ようようのことで安田銀行支店の角まで帰り着いて、人通りのやや少いところで袖の下からかの花を把り出して、電灯のひかりに照らしてみると、寒菊は先ず無難であったが、梅は小枝の折れたのもあるばかりか、花も蕾もかなりに傷められて、梶原源太が箙の梅という形になっていた。

「こんなことなら、明日の朝にすればよかった。」

この源太は二度の駈をする勇気もないので、寒菊の無難をせめてもの幸いに、箙の梅をたずさえて今夜はそのまま帰ってくると、家には中嶋が来て待っていた。

「渋谷の道玄坂辺は大変な繁昌で、どうして、どうして、この辺どころじゃありませんよ」と、彼はいった。

「なんといっても、焼けない土地は仕合せだな。」

こういいながら、わたしは梅と寒菊とを書斎の花瓶にさした。底冷えのする宵である。

(十二月二十三日)

三 明治座

この二、三日は馬鹿に寒い。今朝は手水鉢に厚い氷を見た。