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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Read 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,668 characters · 164 screens
十三日の祇園
十三日には学校でも授業を休んだ。この授業を止む休まないでは毎時論があって、校長は大抵の場合には休む方針を執り、幹事先生は成るべく休まない方を主張した。が、祇園の休業は毎年の例であった。
近在の娘達は早くから来て町々の角に群がった。戸板や樽を持出し、毛布をひろげ、その上に飲食する物を売り、にわかごしらえの腰掛は張板で間に合わせるような、土地の小商人はそこにも、ここにもあった。日頃顔を見知った八百屋夫婦も、本町から市町の方へ曲ろうとする角のあたりに陣取って青い顔の亭主と肥った内儀とが互に片肌抜で、稲荷鮨を漬けたり、海苔巻を作ったりした。貧しい家の児が新調の単衣を着て何か物を配り顔に町を歩いているのも祭の日らしい。
午後に、家のものはB姉妹の許へ招かれて御輿の通るのを見に行った。Bは清少納言の「枕の草紙」などを読みに来る人で、子供もよくその家へ遊びに行く。
光岳寺の境内にある鐘楼からは、絶えず鐘の音が町々の空へ響いて来た。この日は、誰でも鐘楼に上って自由に撞くことを許してあった。三時頃から、私も例の組合の家について夏の日のあたった道を上った。