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ふるむじな
古狢
泉 鏡花
Read 古狢 (ふるむじな) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,891 characters · 40 screens
「朝飯を済ましたばかりなのよ。」
午後三時半である。ききたまえ。
「そこを見込んで誘いましたよ。」
「私もそうだろうと思ってさ。」
大通りを少しあるくと、向うから、羽織の袖で風呂敷づつみを抱いた、脊のすらりとした櫛巻の女が、もの静に来かかって、うつむいて、通過ぎた。
「いい女ね。見ましたか。」
「まったく。」
「しっとりとした、いい容子ね、目許に恐ろしく情のある、口許の優しい、少し寂しい。」
三人とも振返ると、町並樹の影に、その頸許が白く、肩が窶れていた。
かねて、外套氏から聞いた、お藻代の俤に直面した気がしたのである。
路地うちに、子供たちの太鼓の音が賑わしい。入って見ると、裏道の角に、稲荷神の祠があって、幟が立っている。あたかも旧の初午の前日で、まだ人出がない。地口行燈があちこちに昼の影を浮かせて、飴屋、おでん屋の出たのが、再び、気のせいか、談話中の市場を髣髴した。
縦通りを真直ぐに、中六を突切って、左へ――女子学院の塀に添って、あれから、帰宅の途を、再び中六へ向って、順に引返すと、また向うから、容子といい、顔立もおなじような――これは島田髷の娘さんであった――十八九のが行違った。