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めいくんただゆき
名君忠之
夢野 久作
Read 名君忠之 (めいくんただゆき) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,683 characters · 32 screens
「妾……何やら胸騒ぎがする」
と年上のお八代が、気弱らしく起直って、露わな乳の下へ掌を当てた。二十二三であろうか。ボッチャリした下腮に襟化粧が残って、唇が爛れたように紅い。
「きょうは暖いけになあ」
妹の七代は仰向に長くなったまま振向いた。十八九であろうか。キリキリとした目鼻立ち、肉付きである。
「いいえ。今がた早馬の音が涼松の方から聞こえたけに……」
「どこかの若殿の責め馬で御座んしょ」
「いいえ。あたしゃ、きょうのお出ましが気にかかってならぬ」
「ホホ。姉さんとした事が。考えたとてどうなろうか。……おおかた妾たちを追い出せというような、親戚がたの寄合いでがな御座んしょう……ホホ……」
「ほんにお前は気の強い人……」
「……妾たちの知った事じゃ御座んせぬもの。それじゃけに事が八釜しゅうなれば、わたし達を連れて薩州へ退いて見せると、大殿は言い御座ったけになあ」
「あれは真実な事じゃろうかなあ、七代さん」
「大殿の御気象ならヨウわかっとります。云うた事は後へ退かっしゃれんけになあ」
「稚殿も連れて行かっしゃろうなあ。その時は……なあ……」
「オホホ。姉さんていうたら何につけ彼につけ稚殿の事ばっかり……」