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うたのたてやましんじゅういっきょく

唄立山心中一曲

泉 鏡花

Read 唄立山心中一曲 (うたのたてやましんじゅういっきょく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,835 characters · 61 screens

Aozora Bunko

……」

(ああ、腹が減った……)

と色気のない声を出して、どかりと椅子に掛けたのは、焦茶色の洋服で、身の緊った、骨格のいい、中古の軍人といった技師の先生だ。――言うまでもなく、立野竜三郎は渠である――

(減った、減った、無茶に減った。)

と、いきなり卓子の上の風呂敷包みを解くと、中が古風にも竹の子弁当。……御存じはございますまい、三組の食籠で、畳むと入子に重るやつでね。案ずるまでもありませんや、お道姉さんが心入れのお手料理か何かを、旅館から運ぶんだね。

(うまい、ああ旨い、この竹輪は骨がなくて難有い。)

余り旨そうなので、こっちは里心が着きました。建場々々で飲酒りますから、滅多に持出した事のない仕込の片餉、油揚の煮染に沢庵というのを、もくもくと頬張りはじめた。

お道さんが手拭を畳んでちょっと帯に挟んだ、茶汲女という姿で、湯呑を片手に、半身で立って私の方を視ましたがね。

(旦那様……あの、鋳掛屋さんが、お弁当を使いますので、お茶を御馳走いたしました。……お盆がなくて手で失礼でございます。)

と湯気の上る処を、卓子の上へ置くんでございますがね、加賀の赤絵の金々たるものなれども、ねえ、湯呑は嬉しい心意気だ。