Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ばいしょくかもなんばん
売色鴨南蛮
泉 鏡花
Read 売色鴨南蛮 (ばいしょくかもなんばん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,926 characters · 28 screens
……秦さん秦さんと言ったけれど、もう居ないでしょう。何だかね、こんな間違がありそうな気がしてならない、私。私、でね、すぐに後から駆出したのさ。でも、どこって当はないんだもの、鳥居前のあすこの床屋で聞いてみたの。まあね、……まるでお見えなさらないと言うじゃあないの。しまった、と思ったわ。半分夢中で、それでも私がここへ来たのは神仏のお助けです。秦さん、私が助けるんだと思っちゃあ不可い。可うござんすか、可いかえ、貴方。……親御さんが影身に添っていなさるんですよ。可ござんすか、分りましたか。」
と小児のように、柔い胸に、帯も扱帯もひったりと抱き締めて、
「御覧なさい、お月様が、あれ、仏様が。」
忘れはしない、半輪の五日の月が黒雲を下りるように、荘厳なる銀杏の枝に、梢さがりに掛ったのが、可懐い亡き母の乳房の輪線の面影した。
「まあ、これからという、……女にしても蕾のいま、どうして死のうなんてしたんですよ。――私に……私……ええ、それが私に恥かしくって、――」
その乳の震が胸に響く。
「何の塩煎餅の二枚ぐらい、貴方が掏賊でも構やしない――私はね、あの。……まあ、とにかく、内へ行きましょう。