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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
Read 大菩薩峠 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,374 characters · 345 screens
猛獣は嚇しさえすれば、人間を積極的に襲うことはまずないと見られるが、土人ときては、若干の数があって、何をするかわからない。
「見給え、あそこに小舟がある」
「舟でございますか、ははあ、なるほど」
それは小舟です。しかもその小舟が、半分ほど砂にうずもれながら波に洗われつつある。最初は岩の突出かと思いましたが、なるほど、舟だ、その舟も、どうやらバッテイラ形で、土人の用うるような刳舟でないことを、かすかに認めると安心しました。
この捨小舟をめざして急いでみると、それから程遠からぬ小さな池の傍の低地に小屋を営んで、その小屋の前に人間が一人、真向きに太陽の光を浴びて本を読んでいる。黒い洋服をいっぱいに着込んでいるから、それで最初に清八が熊と認めたそれなのでしょう。こちらが驚いたほどに先方が驚かないのです。駒井主従が近寄って来ても、あえて驚異の挙動も示さず、出て迎えようともしないし、来ることを怖れようともしていないのが、少し勝手がおかしいとは思いながらも、危険性は少しも予想されないから、そのまま近づいて見ると、先方は鬚だらけの面をこっちに向けて、じっと見つめていることは確かだが、さて、なんらの敵意もなければ、害心も認められない。