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だいぼさつとうげ

大菩薩峠1

中里 介山

Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens

Aozora Bunko

、沈みきった色。

机竜之助はともかくも、京都をめざしてここまで落ちて来たものです。

老爺が手桶に汲んで来てくれた水を、竹の柄杓で一口飲んで、余水を敷居越しに往還へ投げ捨てて、柄杓を手桶に差し込んでホッと息をつく。

「お茶をいかがでございますな」

老爺が念を押してみると竜之助は首を左右に振る、火鉢をすすめても煙草をふかす様子もないし、詮方なく老爺は再びもとの座に戻って火縄にかかろうとすると、

「草鞋を一足くれぬか」

「はいはい」

吊された手づくりの草鞋一足を引き抜いて、

「峠を三度上り下りしても大丈夫、金の草鞋というのでございます」

老人の癖は自慢である、水を飲ませるにも草鞋を売るにも、すべて自慢がつき纏う。

「それはそうとお武家様、今から草鞋を穿き換えていずれへござらっしゃる」

竜之助の穿き換える足許を見ながら、老爺が不審を打ったのは、この宿で泊るにしても、坂下まで行くにしても、まだ持ちそうな草鞋を捨てるのは早い。

竜之助はその不審に答えなかったから、老爺は手持無沙汰で、

「降らねばいいに」

軒端から天を仰いで独言。

なるほど、今日は朝から陰気臭い日和であった、関の小万の魂魄が、いまだにこの土にとどまって気圧を左右するのか知らん、「与作思えば照る日も曇る」