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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
Read 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 285,635 characters · 558 screens
「竹調べ」から「鉢返し」――「鉢返し」から「盤渉」
世界もちょうど――平調から盤渉にめぐるの時――心ありや、心なしや、この音色。
五
宇津木兵馬は、今宵月明に乗じて中房を出で、松本平の方へ歩みます。
どうして、特に月明の夜を選んだか知らないが、その足どりから見れば、中房の温泉にも望みを失して、すごすごともと来し道を引返す心のうちが、察せられないでもありません。
それにしても、歩みぶりが甚だ悠長で、旅装は常習のことだから、五分もすきはないが、両腕を胸に組んで、うつらうつらと歩いて行く歩みぶりは、いくら月明の夜だからといって、案外な寛怠ぶりであります。
兵馬は、それでも、少し自分の足が早過ぎたなという心持で、振返って立ちどまると、後ろに一つ、うつむいて草鞋の紐を結び直すらしい人影がある。
さては伴がある――察する通り、その伴の人は、杖を下に置いて、しきりに草鞋の紐を結び直しているものに相違ない。
「どうです、うまく結べますかな」
と兵馬が、寛怠ぶりで問いかけると、
「結べやしませんわ、結んでも結んでも、解けてしまうんですもの」
それは女の声であります。