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だいぼさつとうげ

大菩薩峠11

中里 介山

Read 大菩薩峠11 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 368,567 characters · 720 screens

Aozora Bunko

行けども行けども地上の旅を行く人間の哀音、そのいずれより来って、いずれに行くやを知らず、萩のうら風ものさびしく地上を送られ行く人間が、天上の音楽を聞いて、これに合わせんとするあこがれが、すなわち「鈴慕」の音色ではないか。

心は高く霊界を慕えども、足は地上を離るること能わざるそのあこがれ。耳に虚空の妙音の天上にのぼり行くを聞けども、身は片雲の風にさそわれて漂泊に終る人生の悲哀。無限の空間のうちに、眇たるうつせみの一身を歩ませて、限りなき時間の波路を、今日も、昨日も、明日も、明後日も、歩み歩みて、曾無一善のわが身にかかる大能の情けの露に咽ぶ者でなければ、「鈴慕」の曲の味わいはわかるまい。

けだし、最初の人は、霊感うちに湧いてこの曲を作り、第二の人は、曲そのものを学んでその霊感に触れ、第三の人は、曲そのもののようになりて胡盧を描く。

知らず、竜之助はそのいずれの人?

かくて「鈴慕」の一曲を吹きすました時に、感激はないが寂寞はある。

不意に次の間で、

「ホホホホホ」

という女の声がしましたから、竜之助の眼は本能的に、その笑い声のした方へ向いましたが、もとより何物も見えるのではありません。