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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
Read 妖虫 (ようちゅう) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 120,290 characters · 239 screens
それにも拘らず、正気を取戻した珠子は、
「決してあたしの気のせいじゃありません。気のせいやなんかで気絶する人があるもんですか。確かに確かに、あの窓から覗いた奴があるんです。色眼鏡をかけて口髭を生やしていたことも、決して間違いはありません」
と主張してやまぬのだ。
その上、珠子が幻を見たのでない、れっきとした証拠が残っている。絵の具を塗った蠍の死骸などが、ただ訳もなく湯殿の中に落ちている筈がないではないか。青眼鏡の怪物でなくて、誰がこんな変てこな真似をする奴があるものか。
しかも、その曲者の侵入した形跡が少しもないのだ。ここに一つの不可能が為しとげられたのだ。非常に滑稽な空想が許されるならば、青眼鏡は、軽気球の碇綱にとりすがって、窓の所まで下って来た、とでも考える外には仕方がないのではないか。
珠子は医師の手当てを受けて、床についてはいたけれど、恐怖の余り失神したというだけであって、別に心配する容態ではなかったが、この出来事によって、悪魔の予告は決して出鱈目でなかったことが明かになった。彼奴の再度の襲来こそ気懸りだ。今夜は珠子の悲鳴の為に逃去ったとしても、このまま断念してしまう様な相手でないことは分り切っている。