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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens
そこにはすでに古物商の小田滝三と、右隣りの富川十三夫と、たんば老人が来てい、互いに挨拶を交わしながら、寒藤先生はいちばん奥へいって坐った。そのあとから岡田辰弥が来たのだが、詰衿の服にまる刈りの坊主頭で、島さんの眼には十四、五の少年としかみえず、酒を飲むのだから子供は遠慮してくれと、なだめるように断わった。
「僕は子供じゃありません」と岡田辰弥は答えた、「これでも一家の主人ですよ」
「そうだ、それは失敬だが島くんの誤解だ」と寒藤先生が云った、「岡田少年はとしこそ十九だが、五人家族の主人であり立派に生活をいとなんでおる、酒も飲める」
あがりたまえ、と云いかけたとき、島さんのデリケイトな持病が活動し始め、岡田辰弥はびっくりして逃げ腰になった。第一のウィンクに続いて、顔ぜんたいの造作がそれぞれ勝手に痙攣し、なにかが島さんの喉の奥でごろごろ鳴りだしたので、「帰れ」という激しい拒絶の表現だと思ったらしい。
島さんは手まねで岡田少年を制し、そのうちに喉を這い登ったものが、けけけけふん、と鼻へ抜けたので、島さんはにこっと笑って云った。
「あがりたまえ」
あとの客は来ない、とわかったので、島さんは酒を出した。