Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

こどくしゃのあい

孤独者の愛

豊島 与志雄

Read 孤独者の愛 (こどくしゃのあい) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,723 characters · 18 screens

Aozora Bunko

「愛想づかしなら、もうたくさんだ、帰るなら、帰ったらいいじゃないか。」

ちょっと、ひっそりとなった。私は腕を眼の上にあてた。何も見たくなかった。

「わかりました。帰ります。」

こんどはいやに静かな声だ。そしてやはり静かに、彼女は立ち上って、室から出てゆき、静かに階段を降りていった。

私は寝そべったまま、眼をふさいでいた。体がしきりにぴくぴく震えるのを、じっと我慢した。それから、俄に飛び起きた。耳をすましたが、何の物音も聞えなかった。彼女は影のようにすーっと去ってしまった、という感じだった。待ってみたが、戻っては来ない。

私はウイスキーの残りを飲み、炬燵の上に寝具を投げかけ、額までもぐりこんだ。もう夜が更けていたが、眠れはしなかった。

翌日の午前中、私は加津美のまわりを、遠巻きにぐるぐる何度か歩き廻った。まだはっきり決心がつかなかったのだ。とにかく澄江に逢わなければならなかったが、電話をかけるのも気が進まないし、朝から訪れるのもへんなものだし、もし彼女が帰っていなかったら恥さらしだ。

今日になってみると、なんだか世界が変った感じである。感情も言葉もはっきりとは他人と通じ合わない孤独さ、而も多くの冷淡な視線だけを身に受けてるという佗びしさ、そういうところへ再び突き落された気持ちなのだ。