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いえ

家

島崎 藤村

Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,411 characters · 285 screens

Aozora Bunko

「叔父さん、お先へお休み」

と言いに来て、二人とも蚊帳の内へ入った。叔父は独りで起きていた。

楽しい夜の空気はすべての物を包んだ。何もかも沈まり返っていた。樹木ですら葉を垂れて眠るように見えた。妙に、彼は眠られなかった。一旦蚊帳の内へ入って見たが、復た這出した。夜中過と思われる頃まで、一枚ばかり開けた戸に倚凭っていた。

短い夏の夜が明けると、最早立秋という日が来た。生家に居るお雪からは手紙で、酷しい暑さの見舞を書いて寄した。別に二人の姪へ宛てて、留守中のことはくれぐれも宜しく頼む、と認めてあった。

その日、お俊はすこし心地が悪いと言って、風通しの好い処へ横に成った。物も敷かずに枕をして、心臓のあたりを氷で冷した。お延は、これも鉢巻で、頭痛を苦にしていた。

三吉は子供でも可傷るように、

「叔父さんは、病人が有ると心配で仕様が無い」

「御免なさいよ」

とお俊は半ば身を起して、詫びるように言った。

死んだ子供の墓の方へは、未だ三吉は行く気に成らないような心の状態にあった。時々彼は空な懐をひろげて、この世に居ない自分の娘を捜した……彼の虚しい手の中には、何物も抱締めてみるようなものが無かった……朝に晩に傍へ来る娘達が、もし自分の真実の子供ででもあったら……この考えはすこし彼を呆れさせた。