Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しょうせつ えんちょう

小説 圓朝

正岡 容

Read 小説 圓朝 (しょうせつ えんちょう) by 正岡 容 (まさおかいるる) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 163,270 characters · 325 screens

Aozora Bunko

ときどき三日か五日、チャチな寄席に早替りする。今夜は何か素人の落語家がかかるらしい」

神棚へお燈明を上げていた親方が後向きのまんま、いった。そういううちも、四丁目の三味線太鼓早間に賑々しく地囃子が、水銀いろをした暮春の夕闇をかき乱すように聞こえてくる。

「……」

呼吸を奪われてしまいそうな物恋しさだった。物悲しさだった、甘い寄りどころない遣瀬なさでもまたあった。烈しくそれは次郎吉の五体を揺ってきた。否、五体の隅々果て果てまでを、切なく悩ましく揺り動かしてきた。極度のやる方なさに苛まれながら、しかも一面そこには不思議と恍惚たる快感が伴われていた。泣きじゃくりながら、シッカリ抱擁し合っている恋びと同士――それにも似ているかもしれなかった、あたかもこのいまの心持は。

絶えて久しい心のふるさと寄席への郷愁――全身全魂が、まるで南蛮渡りの秘薬の匂いでも嗅がされたよう、うれしく、悲しく、ただぼんやりと憑かれたように媚れてきてしまっていた。

「……」

ボーッと夢見心地に包まれながら次郎吉は、そのままフラフラフラフラ薄闇の彼方へ迷いでていった。夢中で黒塀について曲った。