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さんけいにいくるひとびと
山谿に生くる人々
葉山 嘉樹
Read 山谿に生くる人々 (さんけいにいくるひとびと) by 葉山 嘉樹 (はやまよしき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 33,699 characters · 67 screens
「緑屋へ、行ってすぐ外へ飛び出すように言ってくれ。山が来るんだ。山が来るんだ」
と、ふたたび小林は、耳なんかを素通りにして、じかに頭に響くといった風な、声を出して大山に言った。
小林は物に動じない、腹の据った男であった。が、相手が「山」で、その上に、そいつが動き出して来よう、というのだから、その時は、ちょっと動じたらしかった。
大山は、事の非常なるを覚った。
それは、言葉を理解したというのではなく、小林が、崩壊する山を前にして、感じるであろう一切の事が、その短かい言葉と、調子とで、大山の全身を打ったのであった。
大山はスイッチを入れられたモーターみたいに、その言葉と同時に、回転を始めて報償道路の捨場を駆け降りた。
無我夢中という言葉がある、あれと似た気持であったが、言いかえれば、それは何かの理想を持った人間が、理想を一心に見詰めて、途中を省みない、という状態にも似ていた。
「緑屋の人々を救わねばならない」
と、いう一念が大山の頭脳全体を領したのであった。
だから、山羊でも犬でも駆け下りないような、急峻なところを、大山は一気に飛び下りたのであった。
大山は後で考えたのであるが、そういう場合の人間の気持は、雑念に悩まされない、という事であった。