Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
こころのかわ
心の河
宮本 百合子
Read 心の河 (こころのかわ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,442 characters · 37 screens
と、新しいオー・ド・コローンの瓶を手にとるのを見るのは――つまり自分の感じが間違ってはいなかった証拠であった。さよはそこから二重の嬉しさを得たのである。
時によると、また、彼女は何か云い出そうとする保夫の口先を、
「あ、一寸待って。云わないで、云わないで」と、あわてて遮ることがあった。夕飯後、彼等は定って八時頃まで雑談した。夕暮の気持よい日には縁側に並んで腰をかけたり、庭をぶらついたりしながら。――そういう時、話の続きを中絶させて、さよは熱心に、
「あ! 一寸待って」
を叫ぶのであった。保夫は、兵児帯の後に両手をさし込んだまま、訝しそうに彼女を顧る。
「何故?」
「――その先は私が云うの」
さよは、良人の顔から眼を離さず説明した。
「私がね、貴方がきっとこうおっしゃるだろうと思うことを云うの。当ったか当らないか、正直に教えて頂戴」
そこで、さよはもったいぶり、場合によっては、
「――省――課書記官谷保夫は、今、彼の従弟の就職について云々」
と、冗談を混ぜて良人の考えや心持を話した。保夫は本気にならず、
「莫迦(ばか)」
と苦笑しながらも、さよによって読みあげられる彼の考えというものに耳を借した。