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こころのかわ
心の河
宮本 百合子
Read 心の河 (こころのかわ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,442 characters · 37 screens
あの人にも困るって。先達っての話は、自分から行って断ったのですって……」
さよは、注意深く保夫の返事を待った。幸雄は従弟で、彼はその兄役をしていた。
「贅沢だな。この就職難のとき自分からいいくちを断るなんて……」
保夫が、自分の予期通りのことを、呑気に云うのを見ると、さよは焦立たしさと悲しさとを同時に感じた。彼女は、複雑に、意地悪く動く自分の心持を、惨めに自覚しながら云った。
「伯母様に申上て置いたわ。今度幸雄さんがいらっしゃったら、きッと保夫がよくお話しするでしょうって。――そうでしょう? 貴方幸雄さんに、伯母さんを早く安心させるもんだよっておっしゃるでしょう?」
保夫は、機械的に答えた。
「云わなくちゃあなるまい。――せっかく理財科まで出て遊んでいるのももったいないからな」
さよは、「何故そんな上っ面で安心? どうしてもう一皮、幸雄さんの心持の下まで切り下げないで安心なのだろう!」という、歯痒い歯痒い心持を、やっと、
「幸雄さんはいい従兄を持って仕合わせね」
という皮肉に洩した。
けれども、保夫は、彼の傍で、さよが、どんな感情に煮え立ち、それをどんな心持で制しているかは、まるで感じないように見えた。