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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
Read 新版 放浪記 (しんぱん ほうろうき) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 247,330 characters · 497 screens
私は程よく埃のように外に出されてしまったけれど、――彼女が眉をさかだててなぜあの様な者を上へ上げましたと、いまごろは女中を叱っているであろう事をおもい浮べて、ツバキをひっかけてやりたいような気持ちだった。ヘエー何が慈善だよ、何が公共事業だよだ。夕方になると、朝から何も食べていない二人は、暗い部屋にうずくまって当のない原稿を書いた。
「ねえ、洋食を食べない?」
「ヘエ?」
「カレーライス、カツライス、それともビフテキ?」
「金があるのかい?」
「うん、だって背に腹はかえられないでしょう、だから晩に洋食を取れば、明日の朝までは金を取りにこないでしょう。」
洋食をとって、初めて肉の匂いをかぎ、ずるずるした油をなめていると、めまいがしそうに嬉しくなってくる。一口位は残しておかなくちゃ変よ。腹が少し豊かになると、生きかえったように私達は私達の思想に青い芽を萌やす。全く鼠も出ない有様なのだから仕方もない――。
私は蜜柑箱の机に凭れて童話のようなものをかき始める。外は雨の音なり。玉川の方で、絶え間なく鉄砲を打つ音がしている。深夜だと云うのに、元気のいい事だ。だが、いつまでこんな虫みたいな生活が続くのだろうか、うつむいて子供の無邪気な物語を書いていると、つい目頭が熱くなって来るのだ。