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しんしゃくしょこくばなし
新釈諸国噺
Read 新釈諸国噺 (しんしゃくしょこくばなし) by Dazai Osamu (太宰 治) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 93,562 characters · 179 screens
好きな女と立派なお屋敷に暮して、酒席のなぐさみには伝右衛門を、――」
「その屋敷には、土俵がありますか。」
母は泣き出した。
襖越しに番頭、手代たちが盗み聞きして、互いに顔を見合せて溜息をつき、
「おれならば、お内儀さまのおっしゃるとおりにするんだが。」
「当り前さ。蝦夷が島の端でもいい、立派なお屋敷で、そんな栄華のくらしを三日でもいい、あとは死んでもいい。」
「声が高い。若旦那に聞えると、あの、張手とかいう凄いのを、二つ三つお見舞いされるぞ。」
「そいつは、ごめんだ。」
みな顔色を変え、こそこそと退出する。
その後、才兵衛に意見をしようとする者も無く、才兵衛いよいよ増長して、讃岐一国を狭しとして阿波の徳島、伊予の松山、土佐の高知などの夜宮角力にも出かけて、情容赦も無く相手を突きとばし張り倒し、多くの怪我人を出して、角力は勝ちゃいいんだ、と憎々しげにせせら笑って悠然と引き上げ、朝昼晩、牛馬羊の生肉を食って力をつけ、顔は鬼の如く赤く大きく、路傍で遊んでいる子はそれを見て、きゃっと叫んで病気になり、大人は三丁さきから風をくらって疾走し、丸亀屋の荒磯と言えば、讃岐はおろか四国全体、誰知らぬものとて無い有様となった。