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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
Read 木曽御嶽の両面 (きそおんたけのりょうめん) by 吉江 喬松 (よしえたかまつ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,819 characters · 32 screens
山が漸次に深くなり、山道を荷を負うて通う牛が其処此処に群をなしている。道の両側の坂地をならして小さな麻畑がいくつも出来ている。此処までの道は、山も高くなく、ただありふれた山地の景色に過ぎない。
旗鉾からは山は次第に深くなり、樅、栂、檜などの大木が茂って、路は泥深く、牛の足跡に水が溜っていて、羽虫が一面泥の上を飛んで、人が行くとぱっと舞い上る。道は細くうねうね林の下、谿の上を伝って上る。さあっ、さあっと水の音か、樹上を渡る風の音か、ちょっと判断のつかない響がして、鳥の声が妙に澄んで来る、道を行く者も自ずと黙ってしまう。
雨は止んで、雲が次第にうすくなって来た。まだ行く先き三里の山路だ。
熊笹が次第に深く茂って来た。少し先きまで降っていた雨が、笹の葉にたまっていて、脚絆までもびしょ濡れになる。見ると、行く手の藪の中にぬるでの葉がもう赤く染まって秋の景色をほのめかせている。
一里、二里、熊笹の中を踏んで登る。樅の林が厚く茂って、いくら登っても果しがない。振り返って見ると、樅の樹間を透かして、山々の繞っている間に、稲の敷いている平地が処々に見える。
夕日がきらきら雲間を洩れて射だした。