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たてごし
楯輿
山本 周五郎
Read 楯輿 (たてごし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 8,377 characters · 17 screens
三
眼につくほどの不たしなみもなかったし、また感動させられるようなそぶりにも触れず、いかにもあたりまえな妻、あたりまえな生活が続いていったのである。
年が明けて慶長五年を迎えたその五月に、徳川家康が上杉氏征討の軍を催し、天下の諸侯は競って出陣した。左衛門大夫正則も兵馬を率いて従軍したが、与八郎は留守にまわされて清洲に残った。留守の城代は正則の舅にあたる津田備中守で、それに大崎玄蕃が差添えられていた。まえの年から隠密の間に種々の風説が流布していたし、玄蕃の残ったということがなにかあるなと思わせた、与八郎は寧ろよろこんで留守にまわったのであった。
三
七月中旬、落ちたように風のない、ひどく蒸しむしする日の午後だった。大崎玄蕃からすぐに来いという使いがあったので、支度もそこそこにはせつけると、前後して物頭以下二十人ほどの者が集って来た。なんのための呼集か誰にもわからなかったが、やがて席にあらわれた玄蕃長行は驚くべき出来事を報じた、すなわち石田三成が挙兵したのである。木村惣左衛門という者が使者に来て、……秀頼公の仰せを蒙って家康討伐の軍を起したこと、もちろん福島家は大阪御一味に相違あるまじく、早々こなたの軍勢を入城させたいと思う、そういう意味を伝えたのだ。