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うたまろざんげ
歌麿懺悔
邦枝 完二
Read 歌麿懺悔 (うたまろざんげ) by 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,396 characters · 23 screens
しかも胸の山からそのまま流れて、腰のあたりで一度大きく波を打った肉は、膝への線を割合にすんなり見せながら、体にしては小さい足を内輪に茶色に焼けた畳表を、やけに踏んでいるのだった。
「どうしたのさ、お前さん、早く描かなきや、行燈の油が勿体ないじゃないか」
が、歌麿は腰の矢立を抜き取ったまま、視線を釘附にされたように、お近の胸のあたりを見つめて動こうともしなかった。
「ちぇッ、なんて意気地がない人なんだろう」
そういって女が苦笑した刹那だった。入口の雨戸が開いたと思う間もなく「おや、これは旦那」というお袋の声が聞えたが、すぐに頭の上で、追っかぶせるように、「こいつアめずらしい、歌麿だな」という皮肉な男の声が、いきなり歌麿の耳朶を顫わせた。
「あッ。――」
「まア待ちねえ。逃げるにゃ及ばねえ」
「へえ。――」
しかし、こう答えた時の歌麿は、もはや入口の閾を跨いで、路地の溝板を踏んでいた。
「か、駕籠屋。か、茅場町だ。――」
跣足の歌麿は、通りがかりの駕籠屋を呼ぶにさえ、満足に声が出なかった。
三
自分の家の畳の上に坐って、雇婆の汲んでくれた水を、茶碗に二杯立続けに飲んでも、歌麿は容易に動悸がおさまらなかった。