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しせい
死生
幸徳 秋水
Read 死生 (しせい) by 幸徳 秋水 (こうとくしゅうすい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,970 characters · 20 screens
多くの人々を見るのである。
一昨年の夏、露国より帰航の途中で物故した長谷川二葉亭を、朝野挙って哀悼した所であった、杉村楚人冠は私に戯れて、「君も先年米国への往きか帰りかに船の中ででも死んだら偉いもんだったがなア」と言った。彼れの言は戯言である、左れど実際私としては其当時が死すべき時であったかも知れぬ、死処を得ざりしが為めに、今の私は「偉いもんだ」にならないで「馬鹿な奴だ」「悪い奴だ」になって生き恥じを晒して居る、若し此上生きれば更に生恥じが大きくなるばかりかも知れぬ。
故に短命なる死、不自然なる死ちょうことは、必しも嫌悪し忘弔すべきでない、若し死に嫌忌し哀弔すべき者ありとせば、其は多くの不慮の死、覚悟なき死、安心なき死、諸種の妄執・愛着を断ち得ざるよりする心中の憂悶や、病気や負傷よりする肉体の痛苦を伴う死である、今や私は幸いに此等の条件以外の死を遂ぐべき運命を享け得たのである。
天寿を全くするのは今の社会に何人も至難である、而して若し満足に、幸福に、且つ出来得べくんば其人の分相応――私は分外のことを期待せぬ――の社会的価値を有して死ぬとせば、病死も、餓死も、凍死も、溺死も、焚死も、震死も、轢死も、縊死も、負傷の死も、窒息の死も、自殺も、他殺も、なんの哀弔し嫌忌すべき理由はない