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のこされたるえど
残されたる江戸
柴田 流星
Read 残されたる江戸 (のこされたるえど) by 柴田 流星 (しばたりゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 41,677 characters · 80 screens
が自慢の咽喉だけはどうでもきかしたく、とうとう一日を互いに呼び歩いて、それが病みつき、一端はそうした生業に口すぎするまでの道楽におちて、父親の勘当容易にゆりなかったを、番頭、手代、親戚、縁者の詫び言で、漸う元の若旦那に立ちかえる。しかしそれでも初夏の朝々にこの声を耳にしては、心自ら浮き浮きして、凝乎としていられぬとは馬鹿にしたもうな、江戸ッ児にはありがちのことだ。
但し、この苗売りというもの、商いの苗よりは咽喉が肝腎で、中には随分この若旦那のようながあり、売上の高も節の上手が一番だとは、どこまでも面白き生業の一つである。
木やり唄
揃いの法被に揃いの手拭、向鉢巻に気勢いを見せて、鳶頭、大工二十人、三十人、互いに自慢の咽喉を今日ぞとばかり、音頭取りの一トくさりを唄い終るかおわらぬに一斉の高調子、「めでためでたの若松様よ、枝も栄える、葉も繁る――」と唄い初め唄いおさむる建前のあした、都の空にこの唄声の漸く拡ごり行けば、万丈の紅塵一時に鎮まりかえって、払いたまえともうす棟梁の上なる神幣、そよ風に翻って千代の栄えを徴すとかや。
実に木やり唄は江戸趣味のこれも一つよ。