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ふぐ

河豚

吉川 英治

Read 河豚 (ふぐ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,411 characters · 7 screens

Aozora Bunko

しかし、怖々食べているのでは真味が舌の細胞へゆき届く筈はないから、河豚はやはり四、五度ぐらい食べてみないと味はわからないものと云えよう。そして、そこに至ると、どうも家族にも友達にも、ついこの味を分らせたくなって僕などは自分でもいけないと思う。いくら料理が進歩しても、やはり毒魚である。秋里随筆なども、備後鞆ノ津の名物ふぐ汁を紹介しておいてその末尾に、

――されど、主親につかふる者は食することなかれ、はからず不忠不孝の名を下すべし、且その人品を損なふことあり

と誡しめている。

「――人品を損ふことあり」と考えると、いくら馴れてもやはり実は微かにこわい。量を慎しめばよかろうと、密男のように少しずつたしなむことで慰めているのである。聞くならく坐漁荘主人の西園寺公も、甚だこれを好むということである。国家の元老の老い冷えがちな冬の夜の血液を暖めるに役立てば、河豚もまた国力に関わりがあると云える。これで毒がなかったらなどという望みは、逸民の慾だ、ちり鍋の春菊が赤くなった頃によく出る囈言である。