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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
Read 海豹島 (あざらしとう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 24,311 characters · 48 screens
洞穴のなかほどのところに立って、仔細らしくそこここと透かしていたが、ふとアーエートが死んだのは、五年前の今日ではなかったかというような気がし、恐怖に襲われて入口のほうへ走りだすと、岩の割目に手をかけて狂気のように断崖をよじのぼった。
私は崖の端に腰をおろし、額から滴たりおちる冷汗をぬぐいながら息をはずませていた。見おろすと、塩蔵所の焼棒杭が弱々しい冬の陽に染まりながら寂然たる氷の渚に不吉なようすで林立している。丘の下には焼け焦げた五つの屍体……洞穴の薄明の中には横死をとげた不幸な魂……巻煙草を出して火をつけ、能うかぎりの悠長さで煙をふきながら、得体の知れぬ妄想をはらいのけようとつとめたが、この島にたいする嫌悪の念はいよいよ深まりゆくばかりであった。
南北に延びる岬の端まで行って見たが、そこにも氷の崖があるばかり。岬に近い丘の斜面を東側へ這いおり、海岸づたいに島を一周したのち西海岸から東海岸へ貫通する膃肭獣の追い込み用の地下道も入って見たが、斬りつけるような冷たい風が猛烈に吹きとおっているばかりで、人間が隠れひそみ得る横穴などなかった。
小屋に辿りついて裏口から入って行くと、息苦しいほどの気のたちこめた薄暗いランプの下で、狭山はこちらに背を見せて惘然と坐っていた。