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むほうもの
無法者
豊島 与志雄
Read 無法者 (むほうもの) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,837 characters · 24 screens
「そういう御返事だろうと思っておりましたわ、近頃のあなたの御様子では。」
「様子って、どこかへんなんですか。」
志村はおどけた真似で、顔を撫でてみせた。
「志村さん、すこしお慎みなさらなければいけませんよ。」
急に、房代夫人の調子が変り、そして声が低くなった。
「あなたのお宅には、ずいぶん、女のお客さまが多いそうでございますね。そしてあなたは、朝からお酒を召上ってるそうではございませんか。」
「そうですなあ、考えてみればそんなこともありますが……。」
「まあ、黙ってお聞き下さい、洗いざらい言ってあげますから。ありのままを申すんですのよ。」
志村は肚をきめて、口を噤んだ。両腕を組んで卓によりかかり、靴下の先が焦げるほど火鉢の縁に足をかざした。
「お宅のあの年とった女中さん、あのひとがなんと言っておりますか、御存じですか。うちはいっそ待合にでもしてしまった方が似合っている、そう申したんですよ。」
それは恐らく、あの女中の鶴やの言葉ではなく、外の誰かが言ったことだろう。然し、誰が言ったにせよ、半面の真実ではあった。
「ひとにはやはり、それぞれ贔屓がありますのね。お宅の女中さんたち、旦那さまはいったいどなたが一番お好きなのかしらと、噂をしまして、木村さんがお好きらしいとか、土屋さんがお好きらしいとか、中尾さんがお好きらしいとか