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ばくやくのはなかご
爆薬の花籠
海野 十三
Read 爆薬の花籠 (ばくやくのはなかご) by 海野 十三 (うんのじゅうざ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 101,908 characters · 204 screens
夫人の声は、ふるえる。
「いいえ、とんでもない、あたくしの名は、小さいときからただ一つ、房枝なんですわ」
「まあ、でも」
「あたくしは、生れてからずっと曲馬団の娘なんですわ。どうして、奥様のようないい方を、母親にもてるものですか。ごめんあそばせ」
房枝は、その場にいたたまらなくなって、スミ枝たちにはかまわず、一散に外へ走りだしたのであった。
何もしらないトラックの運転手は、いよいよ帰るのだと思って、運転台へとびのった。そのうちに慰問隊の少女たちは、ぞろぞろと工場の中から出てきた。ただ一人スミ枝だけが、なかなか出てこなかったが、しばらくして、ようよう道子夫人と一緒に出て来た。スミ枝が最後に車上の人になると、トラックはうごきだした。房枝は、うずくまって、手で顔をおおったままついに頭をあげなかった。
賑やかな拍手をもって花の慰問隊を送る工場の人々に交って、道子夫人の顔だけが、ひとり憂にとざされていた。
慰問隊は、一旦日比谷に引揚げ、そして夕方の六時近くになって、めでたく解散した。
房枝は、スミ枝をさそってそばやに入った。そしておそばを二つとったが、房枝はついに箸をつけず、スミ枝の方へ押してやった。