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いのししのあじ
猪の味
北大路 魯山人
Read 猪の味 (いのししのあじ) by 北大路 魯山人 (きたおおじろさんじん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,083 characters · 8 screens
猪の味で野菜を賞味すると言っても、肝心の猪の味がすべて野菜に吸収されてしまっては、猪なべとして問題にならない。元来、猪の肉はそれほどだしの出るものではなく、補助味の役にはならないものである。だから、猪の味だけで食おうとすれば、相当脂肪のついた肉(脂身)を豊富に使うべきである。なべの中に野菜が肉より多いようでは、だしはまず利かない。また味が利くほど煮れば、前述のようなだしがらになって、さけの缶詰肉のようにぼろぼろになってしまい、猪肉の面目はなくなる。
甚だしいのになると、山と積んだ野菜の中に、肉が申しわけ程度、大なべにおまじないみたいに入れてある猪なべ会がある。わずかばかりの肉で大勢の人を呼んだりするから、そういうことになるのであろうが、いかに猪の肉が豪味であろうとも、それでは衆寡敵し得ないのである。なんにしても、猪なべ会というふれこみの大会は、猪肉を賞味するのが目的でない場合が多い。猪なべ会のみに限らないが、これも深くものに徹して、真面目にものを処理しようとしない人間の通有性のあらわれのひとつであると言えよう。
(昭和十年)