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しょうじょうるてん
生々流転
岡本 かの子
Read 生々流転 (しょうじょうるてん) by 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 297,521 characters · 586 screens
塔から塔へ架け廊の朱塗の欄干に干し忘れた夜着布団のいぎたないメリンス模様。瓦屋根に落ちている紙人形の亡骸。三階から二階へかけては、塔同様洋式建築のもありますけれども、接木の古株を見るように、むかし、うまや路で見かけたとでもいう青楼の、面影をいま茲に顧られるかのような店附を遺した家もございます。その店は、重畳の浪を葺き並べた甍。錆びた紋どころに緑青の噴いている銅板の表羽目、長煙管を持った花魁の二の腕までは差出されるが顔は出ない狭間に作られてある連子格子。格子の内側にはいま黒繻子のカーテンが垂れて塞がれ、格子の前の土には縁起を祝って植えたらしい松竹梅の中の竹だけはどうも根附かないらしく、諦めた枯竿だけが他の二木に配されて駒寄せの中に黄ろく立っております。こういう遊女屋の間に混って真面目な表造りの医院があったり、とてつもなく大きい赤提灯を軒先に垂らした煙草屋があったり、この郭中で唯一の引手茶屋があったり、しょっちゅう真魚板を叩く音の絶えない蒲鉾屋があったり、だいぶ馴れては来ましたものゝ、まだわたくしには珍らしい世界です。暗い空の雲は、いまこの世界にすっかり巻き下って、郭の天地を呑み終せたらしく、あたりは一様に混沌とした土気いろに染み付き、気象は目的を遂げて調和点に達したらしく、混沌として土気いろにも薄い暢びやかな