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むらさきだいなごん
紫大納言
Read 紫大納言 (むらさきだいなごん) by Sakaguchi Ango (坂口 安吾) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,899 characters · 26 screens
行くてに笹の繁みをくぐり常に逃げる何物かあり、頭上に蝉がとびたって、逃げまどい、枝にぶつかる音がきこえた。
と、行手はるかに、ののしりどよめく物音が、渡る風に送られて、きこえたような思いがした。たたずんで耳をすますと、まさしく空耳のたぐいではない。音をたよりに忍びよると、木蔭のかなたに焚火をかこむあまたの人の影がみえ、それはまさしく盗人どもにまぎれもなかった。
彼等は酒に酔い痴れていた。すでに宴も終りと思われ、あたりは狼藉をきわめて、ある者はののしり、ある者は唄い、また、ある者は踊り浮かれていた。
ぬすびととねずみは、三輪の神とおなじくて、おだ巻のいとのひとすじに、よるをのみこそたのしめ。
大納言は最も近い木蔭まで忍びよって、さしのぞいた。彼等の獲物と覚しきものを物色したが、遠い夜目にはさだかに見える筈がなく、小笛のありかを突きとめることができなかった。また、どの賊が、彼の小笛を奪った者とも知れなかった。
大納言は、すすみでて、叫んだ。
「私に見覚えの者はいないか。さっき、谷あいの径で、小笛、太刀、衣等を奪われた者が、私だ。あれはたしかに、おまえたちの一味であったにちがいはあるまい。