Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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たんでき

耽溺

岩野 泡鳴

Read 耽溺 (たんでき) by 岩野 泡鳴 (いわのほうめい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 55,597 characters · 110 screens

Aozora Bunko

「田村先生、お早う」

「お前かい?」

「来たら、いけないの?」ぴッたり、僕のそばにからだを押しつけて坐った。それッきりで、目が物を言っていた。僕はその頸をいだいて口づけをしてやろうとしたら、わざとかおをそむけて、

「厭な人、ね」

「厭なら来ないがいい、さ」

「それでも、来たの――あたし、あなたのような人が好きよ。商売人?」

「ああ、商売人」

「どんな商売?」

「本書き商売」

「そんな商売がありますもんか?」

「まア、ない、ね」

「人を馬鹿にしてイるの、ね」と、僕の肩をたたいた。

僕を商売人と見たので、また厭気がしたが、他日わが国を風靡する大文学者だなどといばったところで、かの女の分ろうはずもないから、茶化すつもりでわざと顔をしかめ、

「あ、いたた!」

「うそうそ、そんなことで痛いものですか?」と、ふき出した。卦算の亀の子をおもちゃにしていた。

「全体どうしてお前はこんなところにぐずついてるんだ?」

「東京へ帰りたいの」

「帰りたきゃア早く帰ったらいいじゃアないか?」

「おッ母さんにそう言ってやった、わ、迎えに来なきゃア死んじまうッて」

「おそろしいこッた。しかしそんなことで、びくつくおッ母さんじゃアあるまい」