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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
Read 菊屋敷 (きくやしき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,620 characters · 71 screens
肺腑から迸ばしり出る叫びだった、みんな蒼白になった面を伏せ、ひきそばめた刀をしずかに下へ置いた。庄三郎は役人たちのほうへ向き直って、まず自分の大剣をさしだしながら云った。
「ごらんの如く、みな慎んで上意をお受け致します、お役目ご苦労に存じます」
「神妙なことだ」幕府大目附の者は庄三郎の刀を受取って、
「……本来なれば腰繩をうつべきであるが、一存をもって御藩の役所までさし許すとしましょう、必らず手数をかけぬように」
このあいだに庭へ、十七八人の下役人が集って来ていた、五浦なにがしは部屋の中にあった書物や筆記類を包み、なお門人たちの大剣をまとめて下役の者に預けた。……すっかり始末ができると、十人の者は左右を警護されて庭へ下りたが、そのときはじめて、庄三郎が志保のほうへ向き直った。
「……ご迷惑をかけました、志保どの」かれはこちらを燃えるような眼で見た、「ながいあいだお世話になりましたが、たぶんこれでもうお眼にかかることはないでしょう、ほかに心残りはありませんが、今年の菊を見られないのが残念です、……では、ご機嫌よう」
志保は全身を耳にしてかれの言葉を聞いた、全身を眼にしてかれを見た。