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なのはなものがたり
菜の花物語
児玉 花外
Read 菜の花物語 (なのはなものがたり) by 児玉 花外 (こだまかがい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,608 characters · 5 screens
大和めぐりとは畿内では名高い名所廻りなのだ。吉野の花の盛りの頃を人は説くが、私は黄な菜の花が殆んど広い大和国中を彩色する様な、落花後の期を愛するのである、で私が大和めぐりを為たのも丁度この菜の花の頃であった。
浄瑠璃に哀情のたっぷりある盲人沢一お里の、夢か浮世かの壺坂寺に詣でて、私はただひとり草鞋の紐のゆるんだのを気にしながら、四月の黄な菜の花匂うほこりの路をスタスタと、疲れてしかし夢みつつ歩いて行った。不思議なほど濃紫に晴上った大和の空、晩春四月の薄紅の華やかな絵の如な太陽は、宛ら陽気にふるえる様に暖かく黄味な光線を注落とす。
狂熱し易い弱い脳の私は刺戟されて、遂いうつらうつらと酔った様になってしまう、真黄な濃厚な絵具を野一面にブチ撒けたらしい菜の花と、例の光線が強く反射して私の眼はクラクラと眩しい。それでも、畿内の空の日だと思うと何となく懐かしい、私は日頃の癖のローマンチックの淡い幻影を行手に趁いながら辿った。
額は血が上って熱し、眼も赤く充血したらしい? 茲に倒れても詩の大和路だママよと凝と私は、目を閉って暫らく土に突っ立っていた。すると後ろにトンカタントン……、奇妙に俄かに自分を呼覚すかのような音がした。