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にじのはし
虹の橋
久生 十蘭
Read 虹の橋 (にじのはし) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,038 characters · 30 screens
玄関の格子戸が開いて、
「ご大層な靴があるな。帰ったんだね」
といいながら五十二三の赧ら顔の男が入ってきた。おばあさんはそちらへ顔をむけると、
「金井さんですか。ご心配をかけましたが、千代が帰ってきました」
顔に手をあててさめざめと泣いた。
「よかった、よかった。これで、ご隠居さんも安心だな」
この家の玄関を入るとき、あさひは非情なほど冷静で、あっただけのことを隠さずに話すつもりで、千代のスーツ・ケースをさげてきたが、肩につかまって、みじめな泣きかたをされると、千代さんは死にましたと言いだす勇気は、あさひにはなかった。家主の金井が飛びこんできたとき、
「ただいま帰りました。祖母がいろいろとお世話になりまして……」
と、ひとりでに言葉が辷りだしたが、その場の調子で、不自然だとも厚顔しいとも思わなかった。
最初の日は、大阪の話などしてお茶を濁した。日がたつにつれ、ちょっとした言葉の端からでも、化けの皮が剥げそうで、ひやひやしていた。フサは疑っているようなようすは微塵もなく、ときどき、顔をうつむけて考えこむことがあるが、そのほかは、どんなことでも上機嫌を害うものはなかった。