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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓 (つげびと) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 34,955 characters · 71 screens
老人はせきばらいする声が奥に聞こえるが、寝てしまったらしく、ついにでてこなかった。源四郎はへっついのまえに腰をおろして馬のものをにているらしい。祖父につき離された松女は祖母にまつわって祖母にしかられ、しくしくべそをかいて母の腰にまつわるのである。祖母はなにか気に入らぬことでもあるか、平生の手まめ口まめににず、夜道を遠く帰るべき告げ人にいっこうとんちゃくせぬのである。やとい女もさしずがなければ手出しのしようもない。ただうろついている。源四郎はもとより悪気のある男ではない。祖母の態度に不平があるでもなく、お政の心中を思いやる働きもない。
お政はただひとりで気をもんでるが、子どもには泣きつかれる、どうしてよいかわからぬ。やっと茶をだしたけれど、ひととおり酒食をさせねばならない告げ人を、まま母なる人がみょうによそよそしているのでどうすることもできない。使いの人も食事だけはやって帰りたいと思うても、このありさまにごうをにやし、雨が降るのに夜おそくなってはといいだして、いとまを告げるのである。
「一口さしあげないで、どうしてお帰し申すことができましょう。ご遠方のお帰りをまことに申しわけが……」