Japanese reading practice

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きんろう

金狼

久生 十蘭

Read 金狼 (きんろう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 89,438 characters · 179 screens

Aozora Bunko

9

乾はつくづくと検分すると、妙にとりすまして、いった。

「おい、おやじ、これをもとのようにくくって、いまのところへ沈めてくれ」

「えっ、また沈めるんですか」

「黙っていったとおりにすればいいんだ。……さがしてるのはこんなもんじゃない。……かかり合いになるからよ」

「へえ、ご尤も……」

もとのように石をつめてくくられると、着物はまた溜堀の水の中へ沈んでいった。急に暮れかけてきて、うす闇のなかで、西貝の煙草の火が赤く光りはじめた。

9

秋風がふく。

狭すぎる新宿の通りを、めっきり黝んできた人のながれが淀みながら動いていた。ひとすじは角筈の歩道を下り、ひとすじは三越の横から吉本ショウのほうへ曲って、けっきょく駅のなかへ流れこんでしまう。新宿は憂いあるひとの故郷ではない。このなかへ自分をかくすことも、このなかで悲しみを忘れることも出来ない。新宿は、浅草がするようにひとを抱いたりしない。用をすましたら、さっさと出てゆかなくてはならない。新宿は近代的な立て場にすぎないのだ。

久我が二幸の横の食傷新道から出てきた。人波に逆いながら〈高野〉の前までくると、急に足をとめてそこの飾窓を覗きこんだ。