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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,547 characters · 27 screens
すると御家新、苦しくなってか、こう申し立てた。
「今夜は友達の家へ行っていま帰ったところ、その友達は鋳かけ屋で、明石町宗十郎店に住む佐平次という者だが、何の用でそんなことを訊くのだ。」
見え透いた虚言、藤吉はにっこりした。そしてなれなれしく、一本ずいと突っ込んだ。
「弓がおありかね?」
御家新はまた黙り込んだ。一筋繩ではいかない、こう観念した藤吉、驚いている御家新を残して、急ぎ帰路についた。
でたらめを吐いた以上、明朝と言わず今すぐに佐平次方へ口を合してくれと頼みに出かけるであろう、と思った藤吉、途中うしろを振り返って行くと、明石町の手前、さむさ橋の際へ来た時、はたして後に、御家新の姿が見えた。と、闇黒の奥で弦音、とたんに矢風、藤吉とっさに泥に寝た。間一髪、矢は傍の小石を散らしてかちりと鳴る。呼吸を潜めた藤吉の前へ、首尾を案じて男の影が、弓を片手に現れた。充分仕留めたつもりらしい、頭上立って、今や止めを刺そうとする。白刃一閃、そこを藤吉、足を上げて蹴る、起きる、暗いから所在もよくは解らないが、猛然と跳りかかったら、運よく確かと抱きついた。と思ったも束の間、敵もさる者、声も立てず顔の形にも触らせずにするりと振り切る。