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すずきもんど
鈴木主水
久生 十蘭
Read 鈴木主水 (すずきもんど) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,827 characters · 26 screens
少女といってもいいような初々しい稚顔をしている。手足の形も未熟である。舞もかくべつ上手だというようなものではないらしい。気を張って舞っているのがその証拠である。楽しそうにはしていない。踊の手振りの間に、それとない愁い顔をする。
主水はお糸の方の舞の手振りを見ているうちに、この女を刺すということが、たいして意義のあることのようには思えなくなった。悪人ばらに、いささかの覚醒を与える効果はあるだろうが、それでお家の禍根を断つというのでもない。事をするのは簡単だ。刺してその場から逐電するだけのことだが、この女が胸から血を流してのけ反るざまは、見られたものではなかろう。なんといってもむごたらしすぎる。
そんなことを考えているうちに、この七月のはじめの夜、御待合の腰掛で舞扇を拾ったことを思いだした。
「女の心はわからない」
主水はもう一度そうつぶやいた。御腰掛の密会も、舞扇も、すべて当座の思いつきにすぎない。ありもせぬつくりごとだったが、どういう心であの女が承服したのかそこのところがわからない。いまもってこれは解けぬ謎である。
聞けるものなら、誰かに聞いてみたい。