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うし
鎧櫃の血
岡本 綺堂
Read 鎧櫃の血 (うし) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,702 characters · 99 screens
」
「おはいり。」
許しを受けて、お国は又そっと障子をあけた。かれは寝まきのままで、蚊帳の外へ這い寄った。
「おかみさん。ちょいとおいで下さいませんか。」
「どこへ行くの。」
「お元さんのお部屋へ……。」
お此は又はっとしたが、一種の好奇心もまじって、これも寝まきのままで蚊帳から抜け出した。お元の部屋は土蔵前の四畳半で、北向きに一間の肱かけ窓が付いていた。その窓の戸を洩れる朝のひかりをたよりに、お此は廊下の障子を細目にあけて窺うと、部屋いっぱいに吊られた蚊帳のなかに、お元は東枕に眠っている。その枕もとに一匹の灰色の小鼠が、あたかもその夢を守るようにうずくまっていた。
「御覧になりましたか。」と、お国は小声で言った。
お此はもう返事が出来なかった。かれは半分夢中でお国の手をつかんで、ふるえる足を踏みしめながら自分の八畳の間へ戻って来ると、七兵衛も待ちかねたように声をかけた。
「おい、どうした。」
鼠の話を聞かされて、七兵衛は起きあがった。彼もぬき足をして、お元の寝床を覗きにゆくと、その枕もとに鼠らしい物のすがたは見えなかった。お国も鼠を見たと言い、お此も確かに見たと言うのであるが、自分の眼で見届けない以上、七兵衛はやはり半信半疑であるので、むやみに騒いではならないと女達を戒めて、お国を自分の部屋へさがらせた。