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ゆき
雪
楠田 匡介
Read 雪 (ゆき) by 楠田 匡介 (くすだきょうすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 24,792 characters · 50 screens
争いした事も金の事で「自分をわざわざ東京からいそがしい中を呼んでおいて、今になって売らんの金高が合わないのといい出しましたのです。私にすれば百冊の本より、久三さんの持っていた土佐光行の『極楽寺縁起』が欲しかったのです。それに、昔の事までいい立てられましたので……」というのだった。
「伊東さんの便所から帰ったのは知っています。然しその間の時間は三分のものやら三十分のものやら、一睡りしたらしいので判りません」
「一番最後に、あの書庫に入ったのは、山村さんだろうと思います」と述べている。
いつの間にか、日は暮れて、洋燈に火が入れられていた。人々は疲れあぐんだ態で煙草だけを、やけにあげていた。
五十嵐の訊問が終ると、田名網警部はやっと腰をあげた。それから伊東、五十嵐のいる部屋を一応みて、望月の部屋に入った。そして暫く調べていたが、ふと警部は和服の一人に、
「さっき望月はオーバーを着て行ったろうね」と聞いた。
「いいえ、着て行きませんでした。暖かったし急いでいましたので」
「え! 着て行かなかった? うむ」と警部は何か考えていたが、急に勝手元の方にずかずかと入って行って、夕食の支度をしていたあさに、