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かけおち
駈落
佐左木 俊郎
Read 駈落 (かけおち) by 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,287 characters · 13 screens
自分の町場へ生まれなかったことを彼女は残念に思った。町場の娘達は、どんな貧しい家の娘でも、自分よりは幸福であるように彼女は思った。
母さんが生きてでくれたら……と、菊枝は死んだ母のことを想い出した。涙がまた、ほろりとまろび出た。彼女は手拭いの端で眼を押さえた。
五
その日、菊枝は一日中憂鬱だった。
明日は六社様のお祭りだ! 明後日は、祭りの翌日で、草臥れ休みだ。彼方此方の田圃に散らばって田の草を取っている娘達は、皆んな歌ったり巫山戯たり、大変な元気だった。併し菊枝だけは、終日黙々としていた。
「菊枝つあん。明日、行ぎしべ?」と川向こうから声をかけた友達にも、彼女は、微笑みを口元に浮かべて首を振って見せただけであった。
夜になって、片岡の家に日傭を取りに来た十幾人かは、夕飯の時から乾燥きっていた。今夜は勘定だ。明日は祭りだ。明後日は草臥れ休みだ。その意識はみんなの心を浮き立たせていた。そうして巫山戯させた。併し、菊枝と春吉とは父娘揃ってふさぎ込んでいた。他人が冗談を言っても、春吉と菊枝とは、微かな笑いしか笑わなかった。菊枝は常に落ち着いた娘ではあったが、今日は、落ち着き以上のものだった。