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げかしつ
高野聖
泉 鏡花
Read 高野聖 (げかしつ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,264 characters · 104 screens
「じゃ言いましょうか」
「うん、承ろう」と男はやや容を正せり。
「ちっと羞ずかしいことさ」
「なんなりとも」
「諾いてくださるか。いずれおまえさんの身に適ったことじゃあるけれども」
「一応聴いた上でなければ、返事はできんけれど、身に適ったことなら、ずいぶん諾くさ」
白糸は鬢の乱れを掻き上げて、いくぶんの赧羞しさを紛らわさんとせり。馭者は月に向かえる美人の姿の輝くばかりなるを打ち瞶りつつ、固唾を嚥みてその語るを待てり。白糸は始めに口籠もりたりしが、直ちに心を定めたる気色にて、
「処女のように羞ずかしがることもない、いい婆のくせにさ。私の所望というのはね、おまえさんにかわいがってもらいたいの」
「ええ!」と馭者は鋭く叫びぬ。
「あれ、そんなこわい顔をしなくったっていいじゃありませんか。何も内君にしてくれと言うんじゃなし。ただ他人らしくなく、生涯親類のようにして暮らしたいと言うんでさね」
馭者は遅疑せず、渠の語るを追いて潔く答えぬ。
「よろしい。けっしてもう他人ではない」
涼しき眼と凛々しき眼とは、無量の意を含みて相合えり。渠らは無言の数秒の間に、不能語、不可説なる至微至妙の霊語を交えたりき。