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くろゆり
黒百合
泉 鏡花
Read 黒百合 (くろゆり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 78,148 characters · 154 screens
」
一団の烟が急に渦いて出るのを、掴んで投げんと欲するごとく、婆さんは手を掉った。風があたって、※とする下火の影に、その髪は白く、顔は赤い。黄昏の色は一面に裏山を籠めて庭に懸れり。
若山は半面に団扇を翳して、
「当地で黒百合のあるのはどこだとか言ったっけな。」
十八
「ねえ、お婆さん。」
お雪は、黒百合が富山にある、場所の答を、婆さんに譲って、其方を見た。
湯の谷の主は習わずして自から這般の問に応ずべき、経験と知識とを有しているので、
「はい、石滝の奥には咲くそうでござります。」
若山は静かに目を眠ったまま、
「どんな処ですか。」
「蛍の名所なのね。」とお雪は引取る。
「ええ、その入口迄は女子供も参りまする、夏の遊山場でな、お前様。お茶屋も懸っておりまするで、素麺、白玉、心太など冷物もござりますが、一坂越えると、滝がござります。そこまでも夜分参るものは少い位で、その奥山と申しますと、今身を投げようとするものでも恐がって入りませぬ。その中でなければ無いと申しますもの、とても見られますものではござりますまい。」婆さんは言って、蚊遣を煽ぐ団扇の手を留めて、その柄を踞った膝の上にする。